Style
ランジェリーをあなたの日常スタイルに
その道のプロから学ぶスタイルコラム
イギリスからSPLASH特派員がお届け
United Kingdom
イギリスからお届けするランジェリー事情 bySPLASH特派員&ライター Sachi
SDGsを具現化、ディセーブルな人のための英国ランジェリー。モデル・ルーシーの活動も紹介!
皆さま、今回も英国からお届けします。
コラムをお読みいただいている方には、筆者がこれまで美しいランジェリーというポイントにとどまらず、LGBTQ+やプラスサイズの人のためのランジェリーを紹介することによって英国の多様性を紹介してきたことをご理解いただいているかもしれません。
今回のコラムは再度多様性について、ある世界の紹介をしたいと考えています。それが、ディセーブルの人たちとランジェリーというテーマです。 最後までぜひお付き合いください。
ディセーブルとは?
ディセーブルは英語でdisableと書き、「役に立たなくする・能力をなくさせる」、またはコンピュータ用語として「機能や装置などを使用不能・無効にする」の意味を持ちます。
このことから、身体を不自由にする、身体障害を負うというときの表現になります。disabledと受け身の形にして使うことが多くあります。例えば、She is disabled.なら”彼女は障がい者だ”の意味になります。できない人々ではなく、できなくさせられた人々という捉え方です。
少し、英語レッスンのようになってしまいましたが、ディセーブルがどんな意味を持つ言葉かお分かりになっていただけたと思います。
ディセーブルな人たちのための平等法
筆者の住む英国には「Equality Act 2010/平等法」という法律があります。平等法では障害、年齢、性適合、婚姻および同性婚、人種、宗教・信条、性別、性的指向を理由にする差別を禁止しています。
直接的な差別だけでなく、障害者に対する扱いが適法な目的を達成するための均衡のとれた方法であることを証明できないケースなどを禁じているのです。
このような法律のあるイギリスで、障害のある人たちは法律に守られています。
2015年9月、国連サミットでSDGsが採択されました。SDGsとは持続可能な開発目標のことで、世界中で起こっている環境問題・差別・貧困そして人権問題を2030年までに解決しようという計画です。皆さんも何かしらで見聞きされたことがあるのではないでしょうか?
環境問題に関してランジェリー業界も様々な試みやチャレンジを行なっています。
そして、英国の平等法もまさしくSDGsに則った法律と言えます。いかなる状況に置かれていても差別されない、してはいけない、すべての人権は保障されなければいけないのです。
Office for National Statistics「Outcomes for disabled people in the UK 2021」(英国における障害者の成果2021)を見ると、障害者とそうでない人の教育や仕事に関しての様々なデータを見ることができます。
このなかの”Well-being”では、16歳~64歳の障害者はそうでない人よりも平均して評価が低く、不安レベルの平均値でもっとも格差があります。
このように法律で守られていても、何らかの障害を持つことで実際には難しい点があることは現実と言えます。
しかし、ここはイギリス。disabledな人たちが困難に打ち勝って活動している面をぜひ紹介したいと思います。
Lucyに起こったこと
Lucy Dawson(ルーシー・ドーソン)をInstagramの画像とともに紹介しましょう。
ルーシーはコンテンツクリエーター、インフルエンサーであり、そして障害者モデルです。TiktokやTwitterでは40万人近いフォロワーがいます。 2020年、#DisabledAndSexyキャンペーンに参加し大きな反響を呼び、翌年2021年には#BabesWithMobilityAidsは口コミで素早く多くの人に広がりました。
ルーシーはイングランド東部にあるリンカンシャーに生まれます。警察に入ることを目標にレスター大学で犯罪学を学んでいた学生時代、謎の頭痛に悩まされます。それまで軽やかに歩んできた人生が一変してしまいます。
2016年の夏、20歳のときでしたが、診断が難しく3ケ月間、精神科に入院することになりました。抗精神病薬を投与されると病状が急速に悪化します。最後の手段とした電気ショック療法を受けます。
ここでは書ききれない辛い経験をし、入院中の事故によって後遺症が残ることになります。発作が起きてベッドからむき出しのラジエーター(暖房機器)に落ちてしまったのです。
みずから行動を始めたモデルLucy
2016年クリスマス直前に退院した後も、言葉が出なくなったり、文章が成り立たない、言葉を忘れてしまうという様々な症状がルーシーを襲います。1日寝て過ごすことが多くなります。
翌年1月になってようやく診断を受けます。精神的に崩壊していたのではなく、実は脳炎にかかっていたのです。
脳炎とは脳内に白血球が入り込んで炎症を起こし、脳が障害される深刻な病気です。多くの人が脳に後遺症を残し、死亡率が約10人に1人という病気です。
退院から1年が経ったとき、なぜまだ歩くことが困難なのかその理由が分かります。ラジエーターに落ちたときの火傷が坐骨神経を貫通、下肢が麻痺していたのです。
これが彼女にとってターニングポイントになりました。歌や言葉遊びや短距離の歩行などをすることによって、ルーシーは大学に戻り犯罪学の学位を取得できるまでに回復したのです。
そして、片足に装具をつけ杖をつきながらモデルとしての契約を結びます。筆者のコラムで紹介したAnn Summersや他ブランドとも仕事をしてきました。
Lucyのランジェリーへの想いとは
ランジェリーはもちろん、ファッションのキャンペーンで障害者を見ることはほとんどないというルーシー。だからこそ、そこに向けて努力し続ける必要があると言います。その背景には、障害の可視性を高めて、脳炎の認知度をあげることにつなげるという目標があります。
行動を起こせば夢は叶う、ルーシーが私たちに教えてくれます。 障害のある足を隠さず、使う杖でさえファッショナブルなものにする、セクシーなルーシーも可愛らしいルーシーもすべてを見せるという覚悟、その潔さにどれだけの人が勇気づけられているのでしょう。
ディセーブルな人たちのためのランジェリー
オンラインでディセーブルな人たちのためのランジェリーを検索すると、多くのウェブサイトが見つかります。
かのファッション誌VOGUEでも、2022年8月2日の記事でランジェリーゲームを変革する適応型アンダーウェアブランドLiberareが特集されています。車椅子の女性が黒のランジェリーをつけてポーズしている画像で始まり、母親が障害を持つ創設者バトラー氏の言葉を以下のように紹介しています。
”身につけるランジェリーは医療用になり、母が自信をなくしていくのを目の当たりにしました。”
コラム執筆にあたり、日本のadaptive lingerie(様々な生涯を持つ人々のニーズや能力に合わせてデザインされたランジェリー)を少しだけ調べてみましたが、残念ながら医療用のサイトがページを占めていました。
バトラー氏がLiberareを立ち上げたのはその辺が理由になっています。ランジェリーを通して障害のある女性に力を与えること、そして包括的な体験を提供するのです。
アダプティブ・アパレル業界は2026年までに4,000億ドル市場になることが予測されているそうで、これまで見逃されてきた部分に光が当たり始めていることが分かります。
ディセーブルな人のための英国ランジェリーに期待
ルーシーのように障害があってもこんなに行動できる、いや障害があるからこそ奮い立ったのかもしれないなど、今回いろいろ考えさせられる機会になりました。障害者でも健常者でもすべての人によって社会が構成されていること、もちろんどちらが上で下でという話ではありません。
ルーシーに関して言えば、辛い経験を自分だけのものにせずに周りとシェアすると決めるまでの大変さは想像できません。しかし行動を起こしたことで周りにどれだけ大きな影響があるのか、またそれらが自分に戻ってくるという貴重な体験になっていることを実感しているのではないでしょうか。
なんといってもルーシーの表情が明るい!素晴らしいですね。
ランジェリーを通してSDGsに貢献できること、誰でもランジェリーを楽しむ権利があることが筆者がこのコラムで伝えたかったことになります。
さて、次回コラムですが英国のランジェリーブランドをいくつか選び、最新のコレクションや指向を紹介したいと考えています。筆者も今からリサーチを楽しみにしています。ぜひお楽しみにしてくださいね。
Equality Act 2010:
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2010/15/contents
Office for National Statistics「Outcomes for disabled people in the UK 2021」:
https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/healthandsocialcare/disability/articles/outcomesfordisabledpeopleintheuk/2021
Lucy:
https://luuudaw.co.uk
luuudaw Instagram:
https://www.instagram.com/luuudaw/
The Guardian Lucy Dawson:
https://www.theguardian.com/society/2021/aug/25/lucy-dawson-the-model-who-got-a-mystery-headache-a-misdiagnosis-and-a-new-mission-in-life
BBC Disability ~Encephalitis: Friendly fire on my brain saw me sectioned in error:
https://www.bbc.co.uk/news/disability-56187965
恩賜財団済生会 脳炎はこんな病気:
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/encephalitis/
Vogue:
https://www.vogue.co.uk/arts-and-lifestyle/article/liberare-adaptive-underwear
Liberare:
https://liberare.co/collections/frontpage
各分野で活躍する方々に登場していたたきランジェリーや女性の美、最新の ファッションやコーディネイトに関する情報を発信していただく最新コラムです。
©2018 SPLASH.全ての文章は著作権で守られています。無断転載・無断使用、まとめサイト等への引用を厳禁いたします。