COLUMN
News & Trend
気になる最新記事 おすすめセレクト
1954年、イタリアのボローニャで一人の女性の手によって誕生したブランド、その名はLa Perla(ラ・ぺルラ)。創業者のAda Masotti(アダ マゾッティ)は、母親の跡を継ぎ、女性用コルセットの職人学校に通い始め 14 歳でコルセットを作るほどの技術を取得、その手工芸技術はゴールデン・シザーと呼ばれ瞬く間にイタリア中にLa Perlaの名前が広がりイタリアン高級ランジェリーのメゾンとして世界に君臨いたします。しかし、華やかな歴史の裏で経営の権利や財政的な問題、激しいブランドの競争で翻弄されるLa Perlaの姿がありました。今回、イタリアでの現地情報も交えて、La Perlaの創業から破産に至るまでの物語と、その裏側にある従業員たちの苦労、そして存続をかけたブランドの展望を探ります。
目次 -Contents
夢の始まりと創業ストーリー
創業者Ada Masotti(アダ マゾッティ)は、手工芸技術とデザインセンスを融合させたランジェリーを作りたいという強い思いを持っていました。彼女はランジェリーがただの下着ではなく、女性の美しさを引き立てるファッションの一部であるべきだと考えます。彼女の作ったランジェリーは赤いベルベットの箱に収められ、その美しさから「La Perla(真珠)」と名付けられます。
Adaは、自分の作るランジェリーがまるで宝石のように価値があるものと考え、それを象徴するために赤いベルベットの箱に収めることに決めました。赤は情熱や愛、エレガンスを象徴する色であり、彼女の作品が持つ美しさと情熱を表現するのにふさわしい色でした。この赤い箱は瞬く間にLa Perlaのトレードマークとなり、ブランドの高級感と特別感を顧客に強く印象付けるアイコンとなりました。
家族経営と国際的な成功
1960年代に息子のAlberto(アルベルト)がビジネスに加わり、会社はさらなる飛躍を遂げました。彼はLa Perlaを国際的に展開するための戦略を立て、ニューヨークやパリでの店舗展開やファッションショーで大成功を収めます。La Perlaは世界中のファッション愛好家に愛されるブランドとなり1980年代には日本市場にも進出し、東京に初の店舗を開設しました。これにより、アジア市場でもその名を知られるようになります。
La Perlaは著名なモデルを起用したビジュアル広告で、その高級感をアピールします。セレブリティたちの愛用もあり、ブランドの認知度は急上昇しました。こうしてLa Perlaは、単なるランジェリーではなく、イタリアの高級ランジェリーとしてのステータスシンボルとしての地位を確立しました。
2000年代初頭、La Perlaは高級ランジェリーブランドとして成功を収めていましたが、ファッション業界全体の競争が激化し変化に追いついていけませんでした。
新興ブランドが続々と登場し新しいトレンドやスタイルが消費者の嗜好を変化させます。これに対応するための迅速な商品開発とマーケティング戦略が求められ更なる投資が必要でした。
また、国際市場への拡大は成功しましたが、その過程で莫大なコストがかかります。新しい店舗の開設、物流の整備、広告キャンペーンなど、大きな財政負担がかかります。
企業が急成長する中で、内部管理の問題も顕在化しました。特に、在庫管理やサプライチェーンの効率化が遅れたことが財政的負担を増大させます。
結果、2007年、創業家であるMasotti家は財政的な問題に直面しその解決を海外の投資ファンドに任せる選択をします。
La Perlaはアメリカ、サンフランシスコを拠点に活動する投資ファンドJh Partnersに会社を売却。その後の苦難の歴史がここから始まります。
所有者変更の経緯と破産の衝撃
2007年の売却後、La Perlaは再建を試みましたが、いくつかの所有者変更を経て財政状況は改善しませんでした。
- ・2007年: 財政的問題に直面し、アメリカの投資ファンドJh Partnersに売却。
- ・2013年: イタリアの起業家Silvio Scaglia(シルビオ・スカリア)に69百万ユーロで売却。多額の投資を行い再構築を試みる。
- ・2018年: 中国のFosun International(復星国際)との交渉が失敗し、財政難に直面。
- ・2018年: Lars Windhorst(ラース・ウィンドホルスト)、後のTennor Holding(テナーホールディング)に売却されたが再建資金が実行されず、財政状況は悪化。
- ・2019年: デジタル戦略の強化や新製品ラインの導入をする。
- ・2019年: COVID-19パンデミックの影響で売上が大幅に減少。
- ・2021年: イタリアの裁判所の監視下に置かれ経営再建のための特別管理を導入。
- ・2022年: 英国子会社La Perla UKの清算手続きを開始し清算する。
2018年から2023年の間、La Perlaは所有者の変更、再建計画の失敗、COVID-19パンデミックの影響、財政的困難の継続など、多くの試練に直面し今後、さらなる困難が待ち構えています。
2023年、La Perlaは再び財政的に行き詰まり、ボローニャの裁判所はLa Perla Manufacturing Srlの破産状態を宣言しました。これにより、330人の従業員が職を失う危機に直面し、給与の支払も停止。地域経済にも深刻な影響を与えます。La Perlaの破産は、「Made in Italy」のブランド価値とそこで働く従業員たちも大きな打撃を与えました。
従業員の力が動かしたLa Perlaの未来
La Perlaの製造拠点があるボローニャ。ここで働く多くの従業員は女性ですが、彼女達は伝統的な手工芸技術を駆使してランジェリーを縫製、製作してきました。彼女たちの技術と献身が、La Perlaを世界的に有名なブランドに育て上げたといっても過言ではありません。
破産問題に直面する中、彼女たち従業員の雇用と生活が置き去りにされようとされていましたがLa Perlaの従業員と労働組合が立ち上がり、事態の重大さをヨーロッパ中に向けて訴えかけます。以下は実際の従業員の声です。
従業員の声
従業員のコメント: 「私たちはボローニャからヨーロッパ議会がある、ここブリュッセルまで来て抗議活動を行っています。私たちの声が届くことを信じています。私たちはただ、自分たちの仕事と尊厳を守りたいだけです。」
従業員のコメント: 「別荘を購入し、プライベートジェットで飛び回る金融業者は、働く人々を飢えさせる。彼らがLa Perlaを食い物にし従業員たちに給与も払わない!」
このコメントから、従業員たちが直面している困難と怒り、不安を感じ取ることができると同時にLa Perlaの伝統と誇りを守り続けることへの強い意志を持っていることがわかります。
La Perlaの従業員たちは給与の未払いが続く中で生活に困難を感じていますが支援者たちの熱心な応援により政府や地元自治体も支援に動き出します。まずはイタリア政府がLa Perlaの再建を支援するための特別委員会を設置し、企業再建の専門家を招集します。従業員に対しては特別失業給付金が支給されました。また地元のエミリア・ロマーニャ州とボローニャ市ではLa Perlaの従業員を支援するための特別なプログラムを開始し、再就職支援や生活支援を提供しはじめると同時に今回の危機を振り返り地元の産業クラスターを強化し、La Perlaのような高級ブランドが持続可能なビジネスモデルを構築できるように支援する取り組みを始めました。
従業員たちの努力と支援者たちの応援が実り、イタリア政府を動かすことに成功したのです。今後、多くの支援が実現することで、La Perlaは再び立ち上がる可能性を見出しています。
イタリア高級ランジェリー市場への影響
La Perlaの破産は、他のイタリア製高級ブランドにも影響を与えました。特に、伝統的な手工芸技術を持つ職人たちが失業することで、技術の継承が難しくなり、イタリアのファッション業界全体が影響を受ける可能性があります。La Perlaのような老舗ブランドの破産は、ヨーロッパ全体の高級ランジェリー市場に不安定さをもたらし、投資家や消費者の信頼を揺るがしました。
1980年イタリアで創業しスターカップで世界中のセレブの胸元を支えたRitratti MILANO が2024年に事業の停止を表明。La Perlaと共にイタリアの高級ランジェリーを支えたブランドが終わりを迎えました。Ritratti MILANOの事業停止は新型コロナウィルスなど様々な影響もあったと思いますが、不振が続くイタリアンランジェリーにとって影響は避けられないでしょう。
今後、La Perlaの破産により、ヨーロッパの高級ランジェリーブランド(例:Agent Provocateur、Aubade、Chantelle)にどの様な影響があるでしょうか?
既存の高級ブランドの立ち位置がヨーロッパの枠を超えて影響を及ぼす可能性があります。そのため、既存の各ブランドは顧客マーケティングを見直しLa Perlaが今まで供給していた顧客層に新しいアプローチをしていくと思います。また異業種からの新規参入や既存ブランドの新ラインの進出も考えられ、既存ブランドは新たな戦略を打ち出すでしょう。
La Perlaが使用していた素材供給業者や製造パートナーも影響を受けることが予想されます。これにより、他のブランドも供給の安定性を確保するための対策が必要となります。
1つのブランドの破産がこれほどまでに多くの影響を与えている事は本当に驚きます。
ファッション業界の過酷な現実
華やかなファッション業界の裏には、過酷な現実があります。La Perlaのような高級ブランドでさえ、競争の激しい市場で生き残るために、多大な努力と投資を必要とします。従業員は常に高品質と最新のトレンドを追求し、ブランドの名誉を守るために働いています。しかし、一過的な流行は長く続かず、ファショントレンドも目まぐるしく変わり、低価格なファストファションが業界全体を広く覆っています。
財政的な問題や経営上の困難が発生すると、彼らの努力は一瞬で無に帰する危険性があります。La Perlaの破産は、ランジェリー、ファッション業界の厳しい現実を浮き彫りにした現実です。
これからのLa Perla
2023年11月に政府と労働組合、そしてLa Perlaの本来の所有権を有するTennor Holdingとの間で話し合いがもたれました。その中でTennor Holdingの代表者が、具体的な再建計画を提示することはありませんでした。
一時期、高級ブランドを有するコングロマリットが経営に入るのではないか?とのうわさも流れましたが、具体的な計画はありません。
La Perlaが待ち望んでいるのは具体的な再建計画とより信頼できる投資家や経営者の元でブランドの再建を目指す事です。従業員は現在の所有者であるTennor Holdingが関与しない場合でも、製造活動を続ける意向を政府に示しLa Perlaの存続を望んでいます。
政府と地方自治体はLa Perlaの製造活動と雇用を維持するために積極的な支援を計画しています。
イタリアランジェリー界の巨星はまた星空に真珠の輝きを戻せるのでしょうか?ブランドの再生が成功するかどうかが注目されています。
気になるランジェリーのトレンドと最新ニュースを紹介するおすすめコラム。話題のキーワードなどを深堀します!
©2018 SPLASH.全ての文章は著作権で守られています。無断転載・無断使用、まとめサイト等への引用を厳禁いたします。