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ガーターベルトの歴史
時代を超えて愛される伝統とエレガンス

エレガンスとセクシーさを象徴する魅惑のガーターベルト。その起源は中世ヨーロッパにまで遡ります。本記事では、時代を超えて愛されるガーターベルトの歴史と、その魅力を深掘りします。

目次 -Contents

中世ヨーロッパで誕生したガーターベルト

まずは、ガーターベルトの歴史をざっくりと簡単にご紹介しましょう。ガーターベルトの起源は、実はもともと9世紀~11世紀に中世ヨーロッパで男性が使用していた靴下止めにあります。中世ヨーロッパの男性が使用していたガーターは、膝上のあたりを留めるために使用されていました。ガーター(garter)という言葉の語源は、脚のひざやふくらはぎあたりを意味するケルト語に由来すると考えられており、ウェールズ語の「gar」も同じく「脚」を意味していたことから、ガーターと呼ばれるようになったようです。

中世の男性の膝元にある靴下止めがガーターの起源
中世の男性の膝元にある靴下止めがガーターの起源

14世紀頃になると、貴族社会において男女が互いのファッションに影響を与え合う文化が広まりました。女性たちが自身の衣装に男性のファッションを取り入れるようになり、それに伴い女性がガーターを着用するケースも増えていったと言われています。

17世紀になるとイタリアでコルセットが発明され、ヨーロッパの宮廷で普及し始めます。この時期に、貴族の女性たちのファッションは一気に花開き、壮大な王宮文化が築かれました。18世紀頃からは装飾性が高くなり、19世紀には腰や上半身に付けるガーターベルトの初期形態が登場。20世紀初頭には、コルセットにガーターベルトが付いたランジェリーが登場するなど、今のガーターベルトに近い形へと進化を遂げます。

コルセットを着用するヨーロッパの貴婦人
コルセットを着用するヨーロッパの貴婦人

ガーターベルトは男性が着けるものだった?

ガーターは元々男性が使っていたと聞くと驚く方も多いかもしれませんね。中世初期(おおよそ9世紀頃)において、男性はブレー(Braies)と呼ばれる、ぴったりとした現代のスウェットパンツに形が近い、ゆったりとした下着のようなズボンを着用していました。

10世紀頃には、ブレーに代わってホーズ(Hose)やショース(Chausses)と呼ばれる、ぴったりとしたスパッツのようなズボンが一般的となり、騎士や貴族に人気が出ました。これはアニメのピーターパンがはいている緑色のスパッツを想像していただけるとイメージしやすいかと思いますが、多くはリネンやウールで作られており、現代のスパッツのような伸縮性はありませんでした。

ピーターパンが着用したのがホーズ
ピーターパンが着用したのがホーズ

ホーズ(Hose)という言葉は、中世英語や古ノルド語の「hosa」かに由来し、「脚を覆う衣服」を意味しています。ホーズやショースには、短いものから長いものまで様々な形がありましたが、どれもバンドや留め具がなくずり落ちやすかったため、膝や太もも部分を紐やベルトで固定する必要がありました。

このように、男性がズボンのずり落ちを固定するための留め具として使用されていたアイテムが、現代のガーターの原型となります。当時のガーターは、現代のガーターベルトとは異なり、脚に巻きつける紐やベルトのようなものでした。

ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵「Lo Scheggia(ジョヴァンニ・ディ・セル・ジョヴァンニ・グイディ)」による「Desco da parto(出産のトレイ)」に描かれたショースを履く人々。
ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵「Lo Scheggia(ジョヴァンニ・ディ・セル・ジョヴァンニ・グイディ)」による「Desco da parto(出産のトレイ)」に描かれたショースを履く人々。

イングランドに伝わる青いガーターの伝説

イングランドに伝わる、こんな伝説をご存知でしょうか?キリスト教の聖人の一人で、イングランドの守護聖人でもある聖ゲオルギオス(聖ジョージ)。勇敢な軍人でドラゴン退治の伝説でも知られています。そして、彼の膝元には「青いガーター」が結ばれていたという伝説です。

かつてこの伝説を巧みに利用し、自国を勝利へと導いたのが、イングランド王のリチャード1世(獅子心王)です。第三回十字軍(1189-1192年)の遠征を指揮したリチャード1世は、騎士たちの士気を高めるために、当時の騎士や軍人たちの間で崇拝されていた聖ゲオルギオスの象徴である「青いガーター」を、団結のシンボルとして、騎士たちの膝元に結んだそうです。これにより、騎士たちは奮い立ち、多くの地域を奪還することに成功したと伝えられています。

さらに、1346年にイングランド王だったエドワード3世は、クレシーの戦いでフランスに勝利し、忠実な騎士たちの勇敢さを称えるために「ガーター騎士団」を設立します。ガーター騎士団の左脚には青いガーターが巻かれ、ガーター騎士団の守護聖人には聖ゲオルギオスが選ばれました。現在もイングランドの最高勲章とされる「ガーター勲章」も、この時にエドワード3世によって創始されました。

パリのルーヴル美術館所蔵「Raffaello(ラファエロ)」による「Saint George and the Dragon(聖ゲオルギウスと竜)」には膝元に青いガーターが結ばれている。
パリのルーヴル美術館所蔵「Raffaello(ラファエロ)」による「Saint George and the Dragon(聖ゲオルギウスと竜)」には膝元に青いガーターが結ばれている。

日本とも関係が深い、ガーター勲章の由来

2024年6月、日本の天皇陛下である徳仁天皇とチャールズ国王は、日本の最高勲章「大勲位菊花章 頸飾 」とイングランドの最高勲章「ガーター勲章」を贈り合いました。日本の天皇陛下は、明治天皇以降5代続けてガーター勲章を受勲されています。このガーター勲章は、大綬の色がブルーであることから、別名「ブルーリボン」とも呼ばれています。

イングランドでは、青いガーターに象徴されるガーター騎士団が設立された14世紀頃から、一部の上流階級の女性貴族がガーターを着けるようになったと言われています。そして、ガーター勲章が創設されたきっかけは、まさに貴族女性が着用していたガーターにあるという言い伝えもあります。

中世の舞踏会の様子を描いた絵画
中世の舞踏会の様子を描いた絵画

その言い伝えによれば、ひとりの伯爵夫人が舞踏会で踊っていた際に、脚からガーターするりと落ちてしまい、周りの人たちはその出来事を見て笑いました。それを見たエドワード3世は、そのガーターを自ら拾い上げ「Honi soit qui mal y pense(思い邪なる者に災いあれ)」と言い、ガーターを自分の左足に付けました。彼のこの素晴らしい行動は、ガーター勲章の由来となっただけでなく、ガーターはただの布ではなく特別で高貴なものだと知らしめたのです。

ただし、これはあくまでも言い伝えであり、ガーター勲章が創設された頃に女性がすでにガーターを着用していたかどうかは定かではありません。それでも、この逸話はイングランドの名誉と品位を高める素晴らしい物語であること言えるでしょう。

ウィリアム王子の左腕に見えるガーター勲章と聖ゲオルギオスのガーター勲章
ウィリアム王子の左腕に見えるガーター勲章と聖ゲオルギオスのガーター勲章

ガーターとサムシングブルーの伝承

15世紀になると、女性たちの間でもガーターが普及していきました。この頃フランスでは、結婚式において新郎が新婦のガーターベルトを外して投げる「ガータートス」の習慣が生まれました。ガータートスの起源や伝承には様々な説がありますが、中世ヨーロッパでは、新郎新婦の幸運を願うために、結婚式に訪れたゲストたちが新郎新婦の衣服を引きちぎり、幸運の象徴として持ち帰る習慣があったそうです。この行為が危険であるとして、ガータートスやブーケトスの起源となったと言われています。

欧米のガータートスは新郎が新婦のスカートにもぐりこみガーターを外すのが一般的。
欧米のガータートスは新郎が新婦のスカートにもぐりこみガーターを外すのが一般的。

現代でも、ガーターリングを結婚式のゲストに投げることで幸運を次のカップルに引き継ぐ、というジンクスが残っていますが、ブライダルのガーターリングといえば、白に青で装飾されているものが一般的です。これは、19世紀のヴィクトリア朝時代にイングランドのランカシャー地方で始まったとされる「サムシングブルーの伝承」に由来するもので、新婦が青いアイテムを身につけることで、結婚生活が愛と信頼に満ちたものになると信じられています。

Something old, something new, something borrowed, something blue, and a sixpence in your shoe(なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの、なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの)

ブルーは、愛、純粋さ、忠実さ、そして控えめさを象徴し、深い愛、忠誠、信頼を表す色であり、悪霊や邪悪な目から新婦を守るという意味も含まれています。サムシングブルーの伝承と、ガーター騎士団の青いガーターの伝説。これらのブルーにまつわる2つの言い伝えは、偶然の一致として出会っただけなのか、それとも両者の間には深い関連性があるのか。真実はわかりませんが、ブルーとガーターの間にはどうやら深い関係があるようです。

結婚式のガタートスに使用されるガーターリング
結婚式のガタートスに使用されるガーターリング

貴族ファッションから進化するガーターベルト

17世紀になると、イタリアでコルセットが発明され、ヨーロッパの宮廷で広く普及し始めます。この時期、貴族の女性たちのファッションは一気に花開き、壮大な王宮文化が築かれました。同時に、ストッキングを留めるガーターも女性たちの間に広まりました。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ガーターはさらに進化を遂げ、1890年代にはストッキングを固定するための「ホースサポーター」という形で、腰や上半身に付けるガーターベルトの初期形態が登場しました。ホースサポーターは、コルセットにピン留めされたり、ウエストに巻かれたりして使用され、大人から子供まであらゆる世代に普及していたとみられています。

ちなみに、ホース(Hose)という言葉は、中世英語や古ノルド語の「hosa」から来ており、もともとは「脚を覆う衣服」を意味していました。英語のパンティストッキング(pantyhose)の英語にも、hoseという単語が使用されています。

ヨーロッパやアメリカで様々な類似アイテムが登場し、1920年代には遂に現代のガーターベルトの原型となる「ガーターウエスト 」が登場します。膝下の靴下を留める「ソックガーター」なども発売され、この頃からガーターは急速に進化を遂げていきました。

さまざまなバリエーションや類似商品があるガーターベルト
さまざまなバリエーションや類似商品があるガーターベルト

ナイロン革命とガーターベルト

20世紀初頭までのストッキングや靴下は、サポート力が弱く伸縮性も低かったため、ガーターは必需品でした。ところが、1959年にノースカロライナ州の衣料メーカーであるグレン・レイブン・ミルズのデザイナー、アレン・ガント・シニアが、「パンティストッキング(pantyhose)」という画期的な製品を開発したことで、状況が一変します。ストッキングとパンティーが一体化されたパンティストッキングは、当時は画期的なものでした。

ちょうどその時期、女性たちの間でミニスカートが流行し始め、左右分かれた長いソックスタイプだったストッキングよりも、左右が繋がったパンディストッキングが急速に普及していきました。価格も手頃で使いやすかったこともあり、パンティストッキングは広く受け入れられましたが、その一方でガーターの需要は減少することになります。

さらに、1980年代から1990年代にかけて、ストッキングの内側にシリコン製のストッパーが導入され始め、ストッキングやタイツのずり落ちを防ぐための機能として採用されるようになりました。多くのメーカーがこの機能を取り入れたことで、ガーターの需要はますます減っていきました。

画期的だったナイロン製のストッキング
画期的だったナイロン製のストッキング

かつてストッキングとガーターは、どちらが欠けても機能しないファションアイテムでしたが、ナイロンの発明をきっかけに、ガーターはもはや必需品ではなくなっていきました。ナイロン革命によって必需品としての役目を終えることになったガーター。それでもガーターベルトが消えることはありませんでした。女性がファッションとして楽しむ嗜好品として生まれ変わったのです。

女性に広がるガーターとファッション革命

実用的なアイテムとしての機能を終えた後も、ガーターベルトは一部の愛好家やコレクターが秘めた楽しみとして、ランジェリーの世界でひっそりと愛され続けました。そして、映画やメディアなどでも頻繁に取り上げられ、憧れの対象へと昇華していきます。

例えば、1971年の映画「ラスト・ショー」では、女優シビル・シェパードが白いガーターベルトを着用しているシーンが印象的です。また、1986年のデヴィッド・リンチ監督の映画「ブルー・ベルベット」でも、イザベラ・ロッセリーニがガーターベルトを着用し、そのエロティックでミステリアスなムードが多くの男女を魅了しました。

1992年には、ロマン・ポランスキー監督の映画「紅い航路」でエマニュエル・セニエがガーターストッキングを履くシーンも注目されました。「BURLESQUE」や「シカゴ」では、ガーターベルトを着用したセクシーかつ挑発的なスタイルが披露され、若い世代にもファッションとしてガーターベルトが浸透していきました。こうして、大人の女性が楽しむ嗜好品として、女性の品格を象徴するランジェリーとして変貌を遂げていったのです。

映画やショウなどファッション性が高くセクシーな印象になる
映画やショウなどファッション性が高くセクシーな印象になる

2000年代に入ると、下着としてではなくファッションアイテムとしての認知も広がっていきます。クリスティーナ・アギレラやマドンナ、レディー・ガガなどのアーティストがMTVやステージパフォーマンスでガーターベルトを取り入れ、セクシーで大胆でノスタルジーなファッションアイテムとして注目を集めるようになりました。日本でも、ビームスなどの有名アパレルブランドがガーターベルトを服飾デザインに取り入れるなど、若い世代にもファッションとして浸透し始めています。

ファッションに取り入れられたガーターベルト(イメージ画像)
ファッションに取り入れられたガーターベルト(イメージ画像)

青いガーターの伝説から始まり、実用品としてのアイテムから嗜好品としてのランジェリーへの変遷を経て、ファッションとしてのアクセサリーへと進化を遂げたガーターベルト。近い将来、ファッションアイテムとして活用するだけでなく、私たちの想像を超えた全く新しいガーターベルトの活用法が生まれるかもしれません。次世代のガーターベルトの進化に期待しましょう。

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